躍進するオープンソース・ビジネス──2007年には第2の波がやってくる

 2007年にはオープンソース・ソフトウェア・ビジネスの変化がさらに急速に進みそうだ。オープンソース開発者が、OSやデータベースといった基盤的ソフトウェアにとどまらず、さまざまなアプリケーションの提供に活発に取り組んでいるからだ。

─OSビジネスの時代は終焉?─

 ベンチャー・キャピタル会社インデックス・ベンチャーズのゼネラル・パートナー、バーナード・ドール氏によると、同社では、オープンソース・ベースのソフトウェア会社への投資に関する提案を受けた件数が、2006年は前年比で2〜3倍に増加したという。

 インデックス・ベンチャーズは2006年に総額約1,000万ドルをオープンソース企業に投資した。投資先には、データベース管理ソフトウェアを提供するスウェーデンのマイエスキューエルや、BI(ビジネス・インテリジェンス)ソフトウェアを提供する米国ペンタホなどが含まれる。

 さまざまな理由から、ソフトウェア会社は基本的なオープンソース・プラットフォームに価値を付加することに一段と力を入れている。Linuxディストリビューター大手のレッドハットがその好例だ。

 オラクルが10月、「Red Hat Linux」のサポート・サービスをレッドハットより安い料金で提供する事業に乗り出したことは、オープンソース企業がプラットフォームのビジネスだけに収入源を求めていたのでは、事業基盤が脆弱になってしまうことを浮き彫りにした。

 レッドハットはそれに先立つ6月にJavaアプリケーション・サーバ・ベンダーのジェイボスを3億5,000万ドルで買収、事業の多角化に乗りだした。JBossはオープンソース・ソフトウェアと考えられているが、レッドハットの一部門となったジェイボスはJBossのソースコードの管理を、レッドハットによる Red Hat Linuxコードよりも厳格に行っている。この管理強化は、コードを利用して収益を上げることを目的としていると見られる。

 「オープンソースOSの事業で利益を上げる時代は終わっている」と明言するのはアズール・キャピタル・パートナーズのゼネラル・パートナー、キャメロン・レスター氏だ。新興オープンソース企業への投資を手がけるベンチャー・キャピタリストの一人である同氏は、「そうした事業を手がけていた企業は、明らかに業界の変化に機敏に対応しようとしている」と語る。

─コミュニティの新たな役割─

 この10年、オープンソース分野から革新的なビジネス・モデルが登場してきたが、今後もベンチャー・キャピタル資金がそうした発展を後押しするの間違いなさそうだ。

 例えば、オープンソースのスクリプト言語であるPHPをベースとするWebアプリケーションを開発するゼンド・テクノロジーズは、アズールやインデックスを含むベンチャー・キャピタル会社から3,670万ドルの資金を調達している。

 ゼンドの共同創業者で技術担当副社長を務めるアンディ・ガットマンス氏によると、同社はハイブリッド・ビジネス・モデルを採用しており、PHPのオープンソース・コミュニティに参加して基盤コードの改良に取り組みながら、同時に独自技術を駆使したプロプライエタリなWebアプリケーションや開発ツールも提供している。

 「われわれにとって、オープンソースの最大のメリットは、PHP開発で巨大なコミュニティの力を借りられることだ。いわば、われわれは大規模なR&Dチームを擁しているようなものだ」(ガットマンス氏)

 ゼンドはオープンソースの発展に寄与しながら、プロプライエタリな製品を開発することによって、市場に独自の価値を提供できる。例えば、12月6日にリリースされた「Zend Studio 5.5」は、PHPベースWebアプリケーションのライフサイクル全体を管理できる機能を提供する。

 さらに、PHPコミュニティは、ゼンドの商用製品にとって格好の市場でもあるとガットマンス氏は付け加えている。

 ゼンドに投資しているインテル・キャピタルでオープンソース専門の投資マネジャーを務めるプラディープ・タガレ氏は、オープンソース・ソフトウェアをベースとするアプリケーションを提供する企業は、その普及拡大や流通を効率的に進めることができると指摘する。

 「アプリケーションが専門的なものになるほど、その開発に貢献できる開発者のコミュニティは小さくなる。しかし、オープンソース・コミュニティを流通チャネルとして利用すれば、そうしたアプリケーションの提供企業は、販売やマーケティングのコストを抑制でき、よりスムーズに普及を図ることができる」(タガレ氏)

─IT経済の枠組みが変わる─

 インテル・キャピタルは、オープンソース・データベース管理プラットフォーム「PostgreSQL」を利用してストレージ・キャパシティ・プランニング・ソフトウェア「Storage Horizon」を開発・提供するモノスフィアにも投資している。

 モノスフィアはさまざまなベンチャー・キャピタル会社から2,600万ドルもの資金調達に成功した。同社によると、オープンソースをベースにした製品開発は、マイクロソフト製品のような高価なプロプライエタリ・プラットフォームをベースに開発を行うよりも経済的な選択肢だったという。

 また、中小企業向けにIP-PBX電話システムを提供するフォナリティの共同創業者兼CEO、クリス・ライマン氏によると、同社はオープンソース・ソフトウェアの採用により、大手の競合他社よりも安い価格の製品の提供に取り組んでいる。ちなみに、同社はアズールから500万ドルの投資を受けている。

 フォナリティは当初、小規模事業所向けにVoIPサービスを提供する事業を行う計画だった。ところが、VoIPメーカーのアバイヤに、電話が5台しかないオフィス向けのIP-PBXシステムの見積もりを依頼したところ、1万5,000ドルの見積書が送られてきたため、計画を変更してIP-PBXシステムの販売に乗り出したという。

 フォナリティのIP-PBXシステムは、オープンソースのIP- PBXソフトウェア「Asterisk」をベースにしている。Asteriskをベースにプロプライエタリな通話管理機能を加えることで、フォナリティは小規模企業向けのIP-PBXシステムを、シスコシステムズやアバイヤのようなベンダーの約4分の1の価格で販売している。

 こうしたシステム・ベンダーがオープンソース製品を開発するのではないかと心配していないか、という質問に対し、ライマン氏は、「彼らはもっと急いだほうがいい。オープンソース製品は彼らの製品を徹底的に打ち負かそうとしているのだから」と強気な答えを返してくれた。

 一方、レッドハットは、オープンソース化の動きは、基盤的ソフトウェアからアプリケーション分野へと進むだけでなく、あらゆる方向に展開していくと見ている。

 レッドハットのEnterprise Linux担当ゼネラル・マネジャー、スコット・クレンショー氏は、2007年にはオープンソース・イノベーションの第2の波が起こり、仮想化やSOA(サービス指向アーキテクチャ)のオープンソース化が進展すると予想する。

 「こうしたオープンソースにかかわる取り組みは、単に基盤的ソフトウェアからアプリケーション分野へとオープンソースを広めるために行われているわけではない。その真の目標は、ITの経済的枠組みをもう一度根本的に変えることにある」(クレンショー氏)

(ロバート・マリンズ/IDG News Service サンフランシスコ支局)

提供:Computerworld.jp