レビュー: Debian 4.0はDebianによるDebianの再定義

 Debianはプロジェクトの開始以来ほぼ常に、非商用で「自由」という信条を持った最大級のディストリビューションだったが、昨今ではDebianからUbuntuに転向する開発者やユーザも珍しくない。もはやDeibanの存在価値はなくなってしまったのだろうか? 今週リリースされたDebianGNU/Linux 4.0は、そのような問いに対するDebian開発コミュニティからの回答とも言えるリリースだ。

 Debian 4.0の背後にある哲学は、端的に言えば「初心者にとって非常に簡単になるよう最善を尽くしつつ、上級者のチューニングも妨げない」ということであり、DebianのサブプロジェクトDebian on the Desktopのページにも掲げられている。

 言い換えるとDebianは、使いやすさという点でUbuntuなどのディストリビューションと直接的に張り合おうとするのではなく、異なるアプローチを試みているということだ。つまりDebianでは新たなユーザ層に対応する必要を日増しに強く認識しつつも、フリーソフトウェアの「自分で作る」という伝統的なアプローチもいくらか残すために、ユーザが望むなら自分のオペレーティングシステムについてより多くを学ぶことができるようにもしている。この方針は、インストーラ、デスクトップ、デフォルトでインストールされるソフトウェア、セキュリティ、パッケージ管理など、Debian 4.0の随所に反映されている。

 上級者と初心者という異なる2つのユーザ層の間でバランスを取ろうとする取り組みは、インストールプログラムにおいて最も顕著に現われている。例えば私が使用したネットワークインストール版ではデフォルトとしてGNOMEデスクトップが立ち上がるが、KDEやXfce用のCDイメージも利用可能になっている。同様にインストーラについても、デフォルトはここ数年間Debianで使用されてきた非常に多機能で便利なテキストモードのものだが、CDからの起動時にinstallguiというコマンドを使うとXウィンドウシステムなしで直接的にフレームバッファ経由で動く、グラフィック版のインストーラを利用することもできる。また、テキスト版の場合もグラフィック版の場合も、エキスパートモードを利用することができる。なおinstallguiでは、レビュアには嬉しいことに、たいていのウィンドウ内にスクリーンショット撮影用のボタンまでもが用意されている。出力されたスクリーンショットは新しくインストールしたシステムの/var/logに保存されている。

 どのタイプのインストーラもUbuntuのインストーラほど簡単ではないが、その見返りとして、Debianのインストーラを使えば、インストールを終えるころにはシステムについての理解をより深めているはずだ。例えば、Debianのインストーラでは以前からワークステーションのドメイン名の入力を求めるなど経験の浅いユーザが困るような質問も行なっていたが、現在では、やはり同じ質問はするものの、ドメイン名とは何かを説明した明確で簡潔なヘルプとともに「家庭用のネットワークを構築している場合には適当に考えたドメイン名で良いですが、すべてのコンピュータ上で同じドメイン名を使用するようにして下さい」という説明も添えられるようになった。

 異なる2つのユーザ層の両方に魅力あるインストーラにしようという取り組みが特に顕著に現われているのは、パーティション分割に関する部分だ。ユーザは「手動」パーティション分割を行なうか「ガイド」パーティション分割を行なうかを選ぶことができるだけでなく、LVMパーティションを作成し、さらに暗号化するかどうかまで選ぶことができる。またパーティション分割方法についてもすべてを単一パーティションにする方法から、/、/home、/usr、/var、/tmpのすべてを別々のパーティションにする方法まで、複数の方法から選択することができる。またユーザの希望によっては各パーティションの大きさやファイルシステムの種類を変更することも可能だ。各選択肢についての説明がもっとあれば初心者にもより役立つようにも思われたが、パーティション分割に関しては、簡単なデフォルトを提供しつつも、より複雑な選択肢も残してあり、概してよく作り込まれていると言って良いだろう。

 エキスパートモードではさらに、ロケールの指定(ISO-8859/レガシー/UTF-8など)、追加のインストーラ用コンポーネントの指定(ダイヤルアップでのインターネット接続など)、使用するカーネルの指定、パッケージレポジトリの指定(non-freeのソフトウェアをインストールするかどうか)などについてのオプションが用意されている。初心者はこのような多くの選択肢の存在によって迷ってしまうこともあるかもしれないが、多くの中級者ユーザにとっては(特に、あともう少しヘルプが充実していれば)エキスパートモードを使うこと自体が勉強にもなる。

デスクトップのデフォルト

 これまでのDebianのリリースではデスクトップを完全に無視していたわけではないものの、カスタマイズやユーザ体験を向上させるようなことはほとんど行なわれていないことが多かった。Debian 4.0では、(Ubuntuに匹敵するほど洗練されているということはないが、今までとは打って変わって)デフォルトテーマのdebian-moreblueで全体的に統一されていたり、バランスの取れた設定が選ばれている。

 メニュー項目の選び方やシステム全体に影響するような変更を行なったときにルートパスワードの入力を求めるダイアログウィンドウを提示するといったようないくつかの設定は、Debianが行なったというよりはGNOMEからのおこぼれだが、Debianが独自に手を加えた部分もある。例えばより網羅的なメニュー項目を望むユーザのためにメインメニューにDebianの以前のメニューが含められていたり、メニューをカスタマイズしたいユーザのためにAlacarteメニューエディタが用意されていたりする。

 その他の変更としては、MPlayerがインストールされ、Mozillaベースのブラウザ内でビデオを再生することができるようになっているということが挙げられる。ただしDebian 4.0では、いくつかの標準的なビデオ形式の再生を可能にするWin32コーデックは除外されている。また最も顕著な変更の一つとして、これまでのメジャーリリースとは異なりDebian 4.0ではGNOMEのヘルプ文書が含まれるようになったということが挙げられる。これは、GNU Free Documentation License (GFDL) であっても変更不可部分のない文書はフリーでありDebianディストリビューションに含めることができるという、昨年のDebianプロジェクトの投票結果が直接的に反映されたものだ。

 けれどもDebianのデスクトップは、ユーザ体験にさらに注意を向けることでまだ向上する余地があると思われる。例えば、トップパネルにEvolutionのランチャーはあるのにその他の標準的なプログラムが含まれていないことなどがある。しかしまだ改善の余地があるとは言えDebian 4.0は正しい方向へ進んだ一歩ではある。

インストールされるソフトウェア

 Debian 4.0は、Debianの他の最近のマイナーリリースと同様に、インストールされるソフトウェアの選択に関してミニマリスト的なアプローチを取っている。インストーラでインストールされるデフォルトのパッケージは、システムユーティリティとデスクトップ環境のためのものとなっており、パッケージ数は合計で656個となっている。この数字は他の最近のディストリビューションのパッケージ数の約1/3となっている。この結果としてDebian 4.0は、ユーザがシステムに何があるのかを正確に把握しながらブートすることができるほどパッケージ数の少ないスリムなシステムとなっている。ただしそのために、インストールの後に、例えばX-Chatなどのお気に入りのプログラムを追加する時間が必要になる。さらに言えば、最近のGNOMEアプレットが動作基盤として必要とするようになっているMONOさえも、デフォルトではインストールされない。しかし最近、DebianにMONOを追加しようとして苦しんだことのある人にとっては、パッケージレポジトリ内の依存関係がついに修正されたので一安心だろう。

 Debianの正式リリースというのは、最先端のディストリビューションになることをねらったものではない。そうではなくてDebianの正式リリースというのは安定版パッケージレポジトリ内に置かれていることからも分かるように、最新式であることよりも安定していることをより重視したものだ。Debian 4.0でもこの伝統は引き継がれていて、最先端からはやや遅れていて、より安定している(と思われている)バージョンのソフトウェアが含まれている。例えばDebian 4.0のデフォルトのカーネルは最新の2.6.20.6カーネルではなく2.6.18カーネルになっている。同様にGNOMEについても最新版の2.18ではなくGNOME 2.14を使用している。とは言え標準的なGNU/Linuxアプリケーションの成熟度は高まってきているので、数年前にそのような選び方をした場合と比べ、影響は小さくなっている。そしてそれでもなお最新版でなくてはならないという場合には、インストール後にテスト版や不安定版やさらにはexperimentalのレポジトリを使ってアップグレードを行なえば良い。

 Debian 4.0では、フリーなディストリビューションとしてのDebianの立場を保つために、Firefoxの名前はIceweaselウェブブラウザとなっていて、Thunderbirdの名前はIcedove電子メールクライアントとなっている。これらの名称変更はMozilla Foundationの商標管理の取り組みから生じたものであり、各プログラムの機能に対する影響はまったくない。したがって例えばIceweaselに機能を追加するためにFirefox拡張を利用することもできる。Debianコミュニティの考え方に特に共鳴しているわけではない人にとってはこのような名称変更は無意味なことのように思われるかもしれないが、商標問題解決のために必要なこのような変更をしたからと言って特に不自由することもないはずだ。

セキュリティとソフトウェアのインストール

 Debian 4.0には、例えばルートユーザがデスクトップにログインするのを許可しないなど、セキュリティ対策がデフォルトでいくつか施されている。しかしセキュリティに高い関心を寄せている人なら、インストールの際にエキスパートモードを使う必要があるだろう。エキスパートモードでは、SELinuxを有効にするためのオプション、GRUBブートマネージャにパスワードを追加するためのオプション、ルートパスワードの代わりにUbuntuで行なわれているような方法でsudoを使用するかどうかのオプションなどが用意されている。

 Debian 4.0では、パッケージのインストール用のソフトウェアとしてSynapticが含まれている。Synapticはapt-getやdpkgのGUIを提供するプログラムのうち、おそらく最もユーザーフレンドリーなプログラムだが、機能的にはまだapt-getやdpkgよりも劣っている。なおソフトウェアをどのようなツールを使って追加インストールするにしても、(もともとエキスパートモードでインストールしてシステム上でnon-freeのソフトウェアが利用できるように設定したのでなければ)/etc/apt/sources.listにリストされているレポジトリにcontribセクションとnon-freeセクションを付け加えなければ、FlashプレイヤーやAdobe Acrobatを追加インストールすることはできないということに注意しよう。

まだまだ健在

 Debianの衰退や没落の噂はかねてより囁かれている。Debian 4.0は、記事の冒頭で述べた「初心者には簡単で、上級者にはチューニングしやすい」という観点からは必ずしもすべての点で成功しているわけではないかもしれないが、全体的に見て、Debianの再定義という観点から、Debian衰退/没落の噂に対する反駁として十分に成功している。

 最近では多くのディストリビューションの目的が、オペレーティングシステムのことをあまり理解していないユーザ向けの「Windowsのフリー版」となることになってきているようだ。Debianはそのような流れの逆を行っている。Debian 4.0では、ユーザに対して「ユーザは無知でいたがっている」とみなすのではなく、ユーザを学生、つまり最初は知識が乏しいかもしれないが学ぶ能力を持った人として扱っている。これは大胆なアプローチではあるが、同時に今日の他のディストリビューションに欠けていて非常に必要とされているアプローチでもある。つまりDebianは、ここで新たな存在価値を見つけたのかもしれない。そしてその存在価値は、Debianの生き残りを保証するものになる可能性もある。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文