レビュー:VectorLinux SOHO――Slackwareよりも優れたSlackware

 1年半ほど前に初めて試して以来、VectorLinuxは私のもっともお気に入りのプロジェクトの一つとなっている。私がVectorLinuxを気に入っている理由は、VectorLinuxがそのルーツであるSlackwareの安定性とシンプルさを忠実に引き継ぎながらも、幅広いソフトウェアを取り揃えていて、また、初期設定のままでも非常に見掛けが良いためだ。

 つまり言い換えるとVectorLinuxは、堅固な基礎の上に装飾性と機能性を追加したものだということだ。標準版のVectorLinuxにはXfceデスクトップ環境と多様な汎用的アプリケーションが含まれているが、VectorLinux 5.8 SOHOではKDEデスクトップと数多くのSOHOユーザ向けアプリケーションも提供されている。

 VectorLinuxのインストールプログラムはSlackwareのncursesベースのインストーラに基づいていて、システム設定をよりユーザフレンドリにするための手順や機能が追加されている。VectorLinuxではパーティション分割にcfdiskを使用している。すでにディスクのパーティションが分割されている場合は、ルートパーティションなどとして希望するパーティションを指定するだけでよい。一方まだパーティションが分割されていない場合には、パーティションを作成し、そのタイプを指定する必要がある。インストールの際、適切なパーティション分割や設定についての提案などは行なわれない。私の場合、VectorLinuxのインストールの際にスワップ用のパーティションが検出されなかったことが何度かあり、その際には後で/etc/fstabにエントリを追加しなければならなかった。

 ディスクのパーティション分割が完了すると次に、ソフトウェアのカテゴリ選択とシステム設定をメニュー形式で行なうステップになる。Slackwareのアルファベット1文字のカテゴリ名とは異なり、VectorLinuxではopenoffice.tlzやkernel-src.tlzという分かりやすい名前から選択できるようになっている。パッケージにはその他にもMoodin、Firefox、Pidgin、MPlayer、GIMPなどがあり、すべてデフォルトでインストールされる。またVectorLinuxのデフォルト言語は英語だが、その他にもヘブライ語、オランダ語、スペイン語がサポートされている。

 ソフトウェアのインストールが終わると次は設定だ。ここでもやはりメニュー形式でステップごとに進めることができ、入力の際にはチェックボックスやテキスト入力用の枠が用意されている。設定できる内容には、一般ユーザ、画面の解像度、ホスト名とネットワーク設定、ルートのパスワード、ブートローダなどがある。なおVectorLinuxではブートローダとしてLILOとGRUBのどちらも使用することができる。また設定を容易にするためにハードウェアの自動検出機能が装備されているので、大抵の場合にはハードウェアの自動検出結果に応じて提案される設定に同意するだけで済むはずだ。

システム

 システムのブート後ログインすると、ユーザの便宜をはかって、文書やローカルのディレクトリやよく使うアプリケーションなどにリンクしている様々なアイコンがデスクトップ上に表示される。また画面の下部に表示されるパネルには、システムメニュー、いくつかのクイックランチャ、デスクトップページャ、システムトレイ、時計などが用意されている。

VectorLinuxのデスクトップ(クリックで拡大)

 メニューはKDEのデフォルトのメニューで、KDEオフィススイートのすべてとその他のアプリケーションやツールが含まれている。パッケージ管理にはGslaptという、見掛けも操作もSynaptic風のグラフィカルなアプリケーションを利用する。Gslaptには、アップデートや追加パッケージをインストールするためのレポジトリがあらかじめ設定されていた。私はパッケージ・データベースをアップデートした後、いくつかのパッケージをまったく問題なくインストールすることができた。パッケージをインストールするためには、選択したパッケージの上で右クリックして目的の操作を選択し、ツールバーのExecute(実行)をクリックするとよい。

 VectorLinuxには「Vector Administration System Menu」という独自のグラフィカルなシステム設定ツールがある。Vector Administration System Menuを実行するとウィンドウが開き、その中にメニューが入っていて、ユーザパスワードを変更したり、使用するウィンドウマネージャを設定したり、設定を部分的にあるいは全面的にまっさらの状態にするためにスケルトンファイルのエントリをリセットしたり(スケルトンファイルには、より便利にしたり、よりユーザフレンドリにしたりするために、アプリケーションやプロセスに対するデフォルトの動作が設定されている)、rootパスワードが必要となるようなシステム設定を行なったりすることができる。なお最後に挙げたrootパスワードが必要なシステム設定としては、ハードウェア自動検出ユーティリティの設定、ユーザ管理、Xサーバの設定、ブート時に起動するサービスの指定、ホスト名/ネットワークオプションの設定、ハードウェアデバイスの設定、ファイルシステムの設定などがある。

 VectorLinuxの利点としては付属文書も挙げることができる。Vector-Docsという名前のデスクトップアイコンをクリックすると、VectorLinuxシステムを紹介する文書を表示したブラウザのウィンドウが開く。この文書にはVectorLinuxプロジェクトのウェブサイトやヘルプフォーラムへのリンクに加えて、ローカルにある多様なハウツー文書やFAQへのリンクも用意されている。

ハードウェアのサポート

 今回私はVectorLinux 5.8 SOHOをHewlett-Packard Pavilion dv6105usノートPC上で試してみた。このノートPCにはNvidia GeForce Go 6150グラフィックスチップ、Altec Lansing MCP51サウンドチップ、Broadcom 4311ワイヤレスLANチップが搭載されている。私はこのノートPC上で数多くのディストリビューションを試してきたが、ハードウェアの大部分はLinuxカーネルでサポートされていた。

 ほとんどのディストリビューションではこのノートPCのハードウェアは問題なく自動検出されたが、VectorLinuxも例外ではなかった。キーボードもサウンドもワイヤレスではないネットワークも、ログイン時に適切に動作した。タッチパッドも問題なく動作したが、やや反応が過敏過ぎるようにも思えた。USBマウスとUSBメモリを挿入してみたところ、マウスは即座に利用可能になり、USBメモリについてもデスクトップ上にアイコンが表示された。またプリンタの設定は主にCUPSのブラウザインターフェース経由で行なうようになっていた。

 グラフィックス画面は、デフォルトでは「vesa」と1024×768の解像度を使用するように設定された。これは私のディスプレイにとっては最良の設定ではなく、私はベンダ推奨の解像度である1280×800の使用を希望していた。またXサーバはNVドライバでは起動しなかったため、プロプライエタリのNvidiaドライバをダウンロードする必要があった。プロプライエタリのNvidiaドライバをインストールしたところ、解像度を目的の1280×800に合わせることができた。

 一方、今回使用したノートPCのワイヤレスアダプタについてはどのLinuxディストリビューションでもうまく行かないことが多く、Linuxカーネルは私のワイヤレスチップをネイティブにサポートしていないので、私はふだんNdisWrapper経由でWindowsドライバを利用している。しかしVectorLinuxでのサポートは、私が試した、最近リリースされた他のディストリビューションの中でも平均以上の出来映えだった。VectorLinuxは私のチップセットを検出し、bcm43xxモジュールを自動的にロードした。これは類似のチップセットにとっては正しいことなのだが、私のノートPCの場合には不適切だ。しかしVectorLinuxでは、「rmmod bcm43xx」、「ndiswrapper -i bcmwl5.inf」、「modprobe ndiswrapper」、「dhcpcd wlan0」というコマンドを実行するだけでワイヤレスネットワークを動かすことができた。その後この設定をリブート後にも有効にするため、bcm43xxをブラックリストに追加し、ndiswrapperがブート時にロードされるようにした。VectorLinuxは私が経験した中では、ワイヤレスの設定をもっとも簡単に行なうことができた部類に入る。なおドライバはWEPとWPAをサポートしていた。

 VectorLinuxのパワーマネージメントには良い所も悪い所もある。バッテリの残量表示機能はしっかりと機能し正確であるように思われる。また省電力オプション機能についてもちゃんと機能し、klaptopでプロファイルを「ondemand」に設定するとCPUの周波数が動的に変更されるようになった。しかし、ACアダプタを取り外したり再び差し込んだりしたときに自動的にプロファイルが切り替わることはなかった。また、設定しても、一定時間入力がない場合に自動的に画面を消したり、スリープ状態にはならなかった。さらにはklaptopの右クリックのメニューからハイバネーションとサスペンドのオプションが完全になくなっていた。なおログアウト用のメニューも含めどのメニューにもサスペンド(STR)やハイバネーションするという項目が含まれていなかった。なおノートPCのフタを閉じるとバックライトは消えるのだが、 ノートPC自体はサスペンドしなかった。私はklaptopの設定がすべて正しく行なわれていることと、acpidが有効になっていることをしっかりと確認したのだが、結果的にはVectorLinuxではこのような点で問題があるということのようだ。

バンドルソフトウェア

 ソフトウェアは、VectorLinuxが本当に優れている分野だ。699MBのインストールイメージには、便利なソフトウェアがぎっしりと詰まっている。KDEのアプリケーションのすべてに加え、さらに追加のアプリケーションが入っていて、VectorLinuxでは非常に幅広いアプリケーションが提供されている。

VectorLinuxのマルチメディアアプリケーション(クリックで拡大)

 システムの基幹部分では、Linux 2.6.21.1、Xorg 6.9.0、gcc 3.4.6、KDE 3.5.6が採用されている。VectorLinuxには、開発関連やゲーム関連のものも含め、標準的なKDEアプリケーションのすべてが含まれている。またユーザがGNOMEファンである場合のために、GNOMEもGslapt経由で入手可能になっている。グラフィックス関連では、GIMP、Xara Xtreme、showFoto、digiKam、xsaneといったアプリケーションが含まれている。またインターネット用アプリケーションとしてはSeamonkey Internet Suiteが含まれているが、Firefox、Opera、Dillo、Lynx、Konquerorも含まれている。その他にもPidgin、Grsyncに加え、ワイヤレスモニタリング/接続用のツールが3種類含まれている。マルチメディア関連では、mhWaveEdit、MPlayer、JuK、Amarok、K3b、GTV、XCam、Xine、Kabooodle、VLCメディアプレイヤが提供されている。オフィスアプリケーションとしては、OpenOffice.org全体と、Tellico、Samba Network、J-Pilotが含まれている。「Settings(設定)」メニューには主にはKDE Control Panel内のKDEの設定が含まれているが、Xscreensaverの設定も含まれている。「System(システム)」メニューには幅広いモニタリング/設定用ツールがあり、gkrellm、vcpufreq、mVL-Hot設定用アプリケーション、vwifi-connect、Gslapt、ファイアウォール設定用のVL、VASM、プリンタ管理用アプリケーションなどが含まれている。また「Utilities(ユーティリティ)」メニューには、各種エディタやCharacter Map、Groupware Wizard、KchmViewerが含まれている。

 私が試したところ、どのアプリケーションもまったく問題なく利用できたが、Pidginだけは何度もクラッシュし続けた。標準KDEアプリケーションに関しては、私が試した限りはそれぞれ適切に機能した。ビデオプレイヤについては、素晴らしいことに、手元にあったビデオ形式をすべてまったく問題なく再生することができた。ただし、Xineについてのみ.bins形式に関して問題があった。またブラウザには多様なプラグインが含まれていた。アプリケーションはすべて安定していて高速であるように思われた。OpenOffice.orgは最初の起動には10秒ほどかかったが、それ以降はその約半分の時間で起動した。Firefoxは最初の起動に5秒かかった。それ以外のアプリケーションのほとんどは、ほぼ瞬時に起動した。

まとめ

VASM tools(クリックで拡大)

 私にとってSlackwareよりも優れたSlackwareとでも言うべきものを提供し続けているという観点から、私はVectorLinuxを高く評価している。VectorLinuxは美しく、便利であり、ホームオフィスでの作業のためには十分に機能する。デスクトップとしてのVectorLinuxは、困ってしまうような問題などはまったく存在しない、素晴らしいディストリビューションだ。一方モバイルシステムとしては、もう少し洗練する余地があるかもしれない。というのも、ほとんどの要求は満たしているものの、サスペンドのような高度な省電力機能のサポートが欠けていたからだ。

 また、ハードウェアの検出、サポート、設定は全体的には優れていたが、Xorgのバージョンが古かったことには少しがっかりした。このことが原因で、何かささいな問題が起こるシステムもあるかもしれない。VectorLinuxに含まれているVASM toolsとGslaptは非常に便利だった。また、バンドルされていたパッケージの選び方は妥当なものに思えたが、インターネット用のブラウザとビデオ再生の分野ではやや重複が多かったかもしれない。システムの性能については、非常に安定していて、高速で、応答性にも優れていた。全体的にVectorLinux 5.8 SOHOは、ベテランLinuxユーザにも初心者Linuxユーザにも推奨することのできる堅実なリリースだ。

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